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2024/06/30

Curascopiumの第一ミッションコンプリート! 〜筑波大学附属視覚特別支援学校の高校生と17世紀に始まった宇宙のパラダイムシフトを体験しました!〜

Curascopiumの第一ミッションコンプリート! 〜筑波大学附属視覚特別支援学校の高校生と17世紀に始まった宇宙のパラダイムシフトを体験しました!〜

2023年のはじめにカリフォルニア大学バークレー校を起点として発足した、Curascopium団体最初のイベントを無事に終えることができました。Curascopiumは視覚障がいの有無に関係なく隔たりを越えて、教育とエンターテインメントの面でみんなが宇宙の凄さを体感し、楽しめるプラットフォームを実現しつつ、関わった人の人生を豊かにすることを目的として活動しています。その想いが最初に形になったのが「筑波大学附属視覚特別支援学校での天文学の授業」でした。

2023年11月8日に筑波大学附属視覚特別支援学校で講師を勤める柴田直人氏の指導と協力の元、盲目(点字)と弱視(墨字)の高校2年生10人強が受ける地学基礎の特別授業を行いました。普段の地学基礎で学生たちは、太陽の日周運動や星の動き、太陽系の天体の規模、天体望遠鏡などの天文学トピックを模型やワークショップを通じて学んでいます。

そこで、

ガリレオの宇宙観測を起点として始まった「天動説から地動説へのパラダイムシフト」を経験すること

を今回の授業テーマとしました。

学生たちが学んできたこれらの知識を活かして学べる新しい知識であることと、宇宙や天文学の歴史の壮大さに想いを馳せることができる入口でもあるからです。

そのために選んだ内容が、

  1. 地動説と天動説の違い
  2. 17世紀にはじめてガリレオが使った望遠鏡能力の凄さ
  3. 望遠鏡観測を行って明らかになった月の詳細
  4. 衛星という概念の発見と地動説へ

です。

そして今回の授業で大事にしたこととして「インタラクティブで参加型の授業を実現すること」があります。従来の教師が学生に対して一方向に接するのではなく、学生が積極的に参加して、授業を一緒に作り上げていくことで、学生にとって有意義で実りのある時間を過ごしてもらいたかったからです。

そのために重点を当てたのが、上述した今回授業で扱うそれぞれの内容のコンセプトを表す、模型・ワークショップ設計です。

ただし実際に模型のプロトタイプやワークショップの考案をしている時にぶつかった障壁は、「視覚情報があることで認識できる世界」と「視覚情報がないことで認識できる世界」の架け橋を作ることでした。これは視覚支援活動を行っている人々の共通の問題だと思いますが、インクルーシブ天文学の活動を行っている京都大学の嶺重教授や筑波技術大学で教論している小林教授、筑波大学の落合准教授などのさまざまな方の協力の元、無事に模型やワークショップを作り上げることができました。

作った模型とワークショップ:

  • 地動説と天動説の違いを説明するための太陽系の点図面
  • 「カノン」を原曲とするノイズを加えた望遠鏡観測の「感覚」を伝えるための音声
  • 望遠鏡能力を実感するためのビーズ、3D月模型、月クレーター模型
  • ガリレオが残した望遠鏡レンズに映るガリレオ衛星の時系列スケッチの点図
  • 木星、ガリレオ衛星と周回軌道の立体図面
  • 光と陰と音を用いた衛星の概念を体感する立体模型

この中でのハイライトは、最後の光と陰と音を用いた立体模型です。

衛星という概念をガリレオの視点で伝える上で、

ガリレオ衛星の二次元スケッチが、どう木星の周りを周回する衛星の図とリンクするのか

が問題としてありました。

その問題を解決したのがこの模型です。

まず木星とガリレオ衛星の立体模型をそれぞれの軌道上に固定して、片側から強めの光を当てます。そうすることで光が当たる反対側に、それぞれの模型の影ができます。もし影ができる面にスクリーンを差し込めば、スクリーン上にガリレオが残したガリレオ衛星の観測スケッチと同じものができます。ガリレオ衛星の軌道上の位置をずらすことで、スクリーンに映し出される陰の位置や数も変わります。そこで感光器という、光度によって高低を変えて音を出すデバイスを、光方向に向けて影をなぞるようにして動かすことで、ガリレオ衛星の位置を確認しながら、ガリレオ衛星観測のスケッチのように衛星の数の変化や位置の移動を観測することができました。

結果:授業はどうだったか?

今回の活動はCurascopiumが発足してまもない最初のイベントでもあり、かなり手探りなところがあり、授業が終わるまでどう転がるかはわかりませんでしたが、無事に授業を終え、授業を受けた学生たちから嬉しい感想をもらえました。

  • 木星、衛星、月面の拡大などの図や模型を使用した説明がとても分かりやすかった。
  • 自分たちで模型操作ができて、位置関係を確認できたため面白かった。
  • 木星だけでなく他の惑星と衛星にもこの模型を使ってみたいと思った。
  • 天文学の接し方は理論を知ることだけではないと知れた。
  • 自分の興味の持った学者について調べようと思った。
  • ガリレオからの地動説へのシフトだけでなく、他の分野の既成事実も別の存在を観察・考察することで新しい答えに辿り着けると思った。

このように、インタラクティブ性があり参加型の授業を心がけ、作成した模型やワークショップの意図をはっきりさせながら授業を行うことで、天文学の理解を促すことができたと共に、学生と一緒に授業を作り上げることができました。

その一方で、今回の活動の方向性を教育に置いたものの、ワークショップや模型に割く時間が多くなることで、学術的に伝えたい内容をより詳細に伝えるための時間が限られてしまうことなどが課題となりました。

今後のCurascopiumの活動として、

  • 毎年行う筑波大学附属視覚特別支援学校での授業
  • 視覚支援イベントや教育普及活動への積極的な参加
  • エンターテインメント面のある次世代プラネタリウムの実現を目指す

などがありますが、今回の学びを活かしつつ、より精度の高い活動を行っていきます。